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イベントレポート:resonance 建築と庭と人「共鳴する3つの視点」第3回

2025.12.09

2025年11月30日(日)、福武トレスの開園1周年を記念した全3回シリーズイベント「resonance 建築と庭と人『共鳴する3つの視点』」の最終回が開催されました。

これまでの2回にわたって「建築」「施工」という異なる視点から福武トレスを読み解いてきたこのシリーズ。第3回では「造園の視点/継承と更新」と題して、旧庭園の魅力を引き継ぎながらも、今の感性や技術で新しい命を吹き込んだ荻野景観設計の荻野彰大さんをお迎えしました。

この日、紅葉が見頃を迎えた福武トレスに、今回も設計を手がけたTNAの武井誠さん、施工を担った藤木工務店の佐々木啓輔さんがゲストとしてご参加。福武トレスがどうかたちづくられてきたのか、それぞれの立場から語ってくださいました。

はじめに:建築家・武井誠さんよるイントロダクション

イベントの冒頭では、オーナー福武美津子のごあいさつの後、武井さんが改めて福武トレスの設計についてお話しくださいました。

福武トレスは、「建築と庭の新しいあり方を提案する場」だと武井さん。日本の建築や造園のなかでも、ひとつのターニングポイントになるような存在だと語ります。そのうえで、福武トレスをつくるうえで大切にされた3つの視点を紹介されました。

・新旧の庭をつなぐ「緑のコンバージョン」
・外と内の境界を曖昧にする「森に溶け込む建築のかたち」
・芸術作品のように感じられる「透明な鑑賞空間」

これらが自然に響き合いながら、「自然と人、建築と時間が共鳴する場所」として構想されたのが福武トレスであると、改めて話されました。

そして、シリーズのキーワードでもある「resonance(共鳴・共振・共感)」についても言及。建築・庭・施工それぞれのかたちが、この場所と「同じ振動数」を持っていたからこそ、この場所に共鳴が生まれたのでは、と振り返ってくださいました。

荻野さんが語る「継承と更新」の庭づくり

Fスタジオでのトークでは、メインスピーカーの荻野さんが、福武トレスの庭づくりについてじっくりと語ってくださいました。

造園と施工のチームワーク

まず語られたのは、旧庭園を守りながらの建設が、いかに繊細なプロジェクトだったかということ。佐々木さん率いる藤木工務店さんによって、建物に干渉しない既存の樹木・水景・庭石などの位置を測量し、設計図と現地の照合確認を度重ねて行いながら、基礎工事が行われていきました。半田山の借景に沿って不等辺三角形の床や屋根がそれぞれの高さで構成されており、鉄骨やガラスなどの納まりを細かく3D(三次元)で寸法の計算と検討がされています。鉄骨の建て方は工場であらかじめユニット化し組立を行い、4t車で現場に搬入の上、16tラフターで楊重作業を繰り返し、鉄骨建て方が行われました。浮き床下の工事では、鉄骨の建て方(建築)→ 床下の景石の配置(造園)→ 埋戻し(建築)を各床毎に交互に繰り返し行われています。このように、建築工事と造園工事の異なる職種の作業員が共同作業し、お互いの工事を円滑に進めることを「相番(あいばん)」と建設現場では表現します。荻野さん、佐々木さんら福武トレスに関わった工事関係者のチームワークがあってこその作業方式です。こういった細やかな作業間の調整が日々行われ、福武トレスはつくり上げられていったのです。

地元素材へのまなざしと技術

庭石は、もともと敷地にあったものに加えて、岡山の「矢掛石」や「大久保石」など、地元で採れる素材を場所ごとに使い分けて選定。また、池の水質管理には、化学薬品ではなく岡山県発の「バクチャー」という微生物浄化技術が導入され、庭の環境にもやさしい工夫がなされていました。

小形研三氏の思いを受け継ぐ

旧庭園をつくられた造園家・小形研三さんについて、荻野さんは「神様のような存在」と敬意を込めて語ります。復元にあたっては、小形さんが込めた意図や石組みのロジックを丁寧に読み解きながら、特に特徴的な樹形を持つ木を全国から探してきたとのこと。小形さんの言葉「雑木の庭は10〜15年ごとに更新すべき」という考え方を受け継ぎながらも、荻野さんは「これからは、木を切るのではなく、『植え足す』ことで静かに更新していきたい」と語られました。完成して終わりではなく、時間とともに育っていく庭という考え方が印象的でした。

荻野さんと一緒に歩く庭園ツアー

後半は、荻野さんが参加者の皆さんを庭へとご案内。建築と庭の関係性を実際に体感してもらうツアーが行われました。

荻野さんが紹介したビューポイントは、以下の6つ。

・Fサロンから臨む、旧庭園の忠実な再現
・小形氏の滝組を復元した石組み
・半田山を借景にした庭の全体ビュー
・正面入口で感じる「森に溶け込む建築」
・カフェ棟の裏、柱と木々が一体になったエリア
・カフェ棟の正面、常緑樹と落葉樹が演出する「森に浮かぶ建築」

ぜひ次回来園いただいた際は、荻野さんのビューポイントを参考にしながら、巡ってみてください。

Fサロン前で解説する荻野さん。竣工時の庭の写真を参考に、自然樹形の連続や苔の造形なども忠実に再現されました。
滝組周辺は、建築と造園の相番作業が特に実感できます。軒下・床下から垣間見える石、下に入り込んだ植栽や枝葉をぜひ観察してみてください。
池の北側からは半田山と庭園が一体になった風景を楽しめます。復元にあたり、スギゴケ部分を岡山の日照りに強いヒラドツツジ・サツキに変更しています。
カフェ棟裏は、鉄柱と陰樹林のリズムの共鳴が感じられる場所です。「建築と庭の一体感が最も現れている場所」と荻野さんは表現します。
正面入口から見るFギャラリー。既存樹木と新規の細い木立の対比で建物が森に溶け込んでいるように見えます。雑木林らしい透かし剪定もポイントです。
カフェ棟正面から。常緑樹と落葉樹を組み合わせることで、透明感がありながらも建築の存在がうまく消える植栽に。

質疑応答タイム:庭のこれからについて

ツアー後は、Fスタジオに戻ってのお茶タイム。参加者のみなさんとの質疑応答を通じて、荻野さんの庭に対する考えがさらに深掘りされていきました。

Q. 植栽設計はどんなふうに考えたのか?

建物が360度ガラス張りという特性を活かし、どこを切り取っても絵になるように構成を考えたそうです。もともと敷地内に駐車場を設置する予定でしたが、設置を敷地外とし、そうすることで庭の奥行きを確保したとのこと。

Q. 植生の選定はどのように決められた?

裏山の半田山や、近くの半田山植物園を実際に歩いて参考にされたそう。足元にはスミレを、高木にはコナラや赤松など、乾燥や日射に強い岡山らしい植生を採用。常緑樹と落葉樹のバランスも考え、「緑のカーテン」としての機能性も重視されています。

Q. 庭が「完成する」とはどういうこと?

「庭は完成ではなく、これからも育ち続けていくもの」と荻野さん。剪定や植え替えだけではなく、植え足しながら静かに更新していく庭を目指していきたいと話されていました。

さいごに

これにて、全3回にわたる「resonance」シリーズは無事に完結いたしました。

建築・施工・造園という異なる分野の専門家たちが、それぞれの視点を持ち寄り、共鳴しながらつくり上げた福武トレス。その魅力と奥深さを改めて実感する時間となりました。

登壇者の荻野彰大さん、武井誠さん、佐々木啓輔さん、そしてご参加くださった皆さま、本当にありがとうございました!

これからも、静かに美しく更新される福武トレスをどうぞよろしくお願いいたします。

撮影:ブレスカラー植田敬太郎