
『福武トレス』創設関係者によるトークセッション
2025年6月22日(日)、『福武トレス』の開園1周年を記念した全3回シリーズのイベント「resonance 建築と庭と人『共鳴する3つの視点』」の第1回が開催されました。
これまでに当園にご来園いただいたお客様を中心に、申し込み開始と同時に満席となり、スタッフ一同、うれしさとともに「ご期待に応えたい」という思いで当日を迎えました。
本イベントは、『福武トレス』の創設に携わった各分野の専門家をお招きし、トークセッションを通じて「建築と庭と人」の関係性を深く掘り下げる内容です。
登壇者は、
武井誠さん/TNA(建築設計)
荻野彰大さん/荻野景観設計(造園)
佐々木啓輔さん/藤木工務店(施工)
ファシリテーターとして
岡山と東京で活躍されている弥田俊男さん/弥田俊男設計建築事務所
をお迎えいたしました。

冒頭では、オーナー・福武より『福武トレス』誕生の経緯が語られました。現「Fスタジオ」は当初、福武の私邸でしたが、西日本豪雨により裏山で土砂崩れが発生。将来を見据えて引っ越しを決断しました。それをきっかけに、自身が所有者となったこの大好きな福武家の数寄屋と庭園を何とかしなくては、ただ保存するだけではなく未来に向けて何か活用できないかと考え始めました。この思いが『福武トレス』創設の始まりです。
また、福武美津子の父・故哲彦が建てた「福武書店迎賓館・庭園」は、作庭家・小形研三氏と共につくられた希少な空間でした。また、美津子の両親が蒐集していた美術品を、一般の方々にもご覧いただける場を設けたいという思いもありました。
まず、トークセッションでは、武井さんが『福武トレス』創設の経緯や、荻野景観設計・藤木工務店との出会いについて語りました。きっかけは、福武が旧宅の保存活用をTNAに依頼したこと。単なる保存ではなく、未来へ新たな価値を持たせ、どのように残していくかが構想の鍵だったといいます。


小形氏が手がけた雑木の自然風庭園の復元も、創設の大きな柱のひとつ。造園担当の荻野さんは、「高度経済成長の中で忘れられていた雑木に再び役割を与えたのが小形氏。不等辺三角形の配置によって、より自然な里山のような景観が生まれ、人が安心して過ごせる場所になる」と話しました。
「Fギャラリー」の独創的な不等辺三角形の連なりも、雑木の自然風庭園の構成に影響を受けているといいます。武井さんは、「自然に溶け込んでいくような建築をつくりたい」というコンセプトを掲げ、「外と内の境界を曖昧にしたい」と何度も繰り返しました。直角を排し、庭と建築が視覚的に溶け合う設計が目指されています。
とはいえ、こうした前例のないコンセプトと形状により、施工は極めて困難なものに。武井さんは、「建築を構成する要素をとことん削ぎ落とし、課題をシンプルにする」ことで、この建物が実現できたと述べます。
「Fギャラリー」で使用されているのは、基本的に床材・丸い鉄柱・ガラスの3つのみ。鉄柱の太さ38mmは、雑木の幹の太さに近く、建物の外観が木々の中に溶け込むような視覚効果をもたらしています。
また、武井さんは建築家・菊竹清訓による「か・かた・かたち」という考え方を引用。「か」は思想、「かた」は技術・手法、「かたち」は形式・形。建築はこの3つの循環で成り立っており、造園・施工との連携が何よりも重要だったと語りました。
この設計を形にしたのが、施工を担当した佐々木さん率いる藤木工務店の皆さんです。佐々木さんは、「建物位置・基礎・柱の位置等、基準となる場所はすべて座標計算に基づき建物が構成されている」と語り、柱・床・ガラスのすべてが直角ではなく、異なる角度・位置で施工されていることから、極めて高い精度が求められたと話しました。
中でも特に難しかったのがガラスの施工。高透過ガラスを一発勝負で設置するため、失敗は許されません。搬入経路も限られ、仮設ステージを組みながら慎重に作業が進行しました。「武井さんの設計がいじわるで(笑)」と、当時の様子を、ときたまユーモアを交えながら佐々木さんは語ってくださいました。
施工の難易度をさらに高めたのが造園との同時進行です。
「Fギャラリー」の床下まで丁寧に植栽されている様子からもわかるように、「自然に溶け込む建築」を実現するため、施工と造園は交互に行われました。佐々木さんは、今回のプロジェクトに対して「できるかどうかではなく、どうすればできるかを考え続けた」と語りました。


荻野さんは、庭の復元ではなく「再構成」という感覚で取り組んだと述べています。小形氏の作庭の構成を活かしつつも、岡山の気候や現在の敷地、建築に合わせた調整が行われ、植生も地域に適したものが選ばれました。
興味深い数字として、「Fギャラリー」の鉄柱が358本、荻野さんが植えた雑木が355本と、偶然にも近い本数に。相談して決めたわけではないのにこの一致。「か(思想)」を共有していたからこそ、数のうえでも建築と庭が一体化していると感じさせる一例です。
荻野さんは「植物の成長とともに空間も育っていく」とも語り、時間と共に変化し続ける庭づくりの魅力を伝えてくれました。
ファシリテーターの弥田さんからは、建築家としての視点から多くの問いを投げかけ、活発な意見交換が展開されました。特に印象的だったのは、「建築家・施工者・造園家という三者の関係が、この建築の不等辺三角形の構成と共鳴している」という総括。そして、「空間づくりにおいて大切なのは、素材や技術だけでなく、『なぜそうするのか』という問いにどう向き合うか」だと語りました。
このように『福武トレス』という場所は、過去を未来へつなぐために、専門家たちが丁寧に向き合った結果として生まれました。三者の協働と、福武哲彦・美津子の思想が交わることで、「建築」と「庭」と「人」の新たな関係が芽吹き始めています。
園内ツアー・Foodslife塩田さんによるスペシャルランチ会


セッションの後は、園内ツアーとランチ会を開催。全国で活躍する出張料理人・塩田済さん(Foodslife)による、建築と庭をイメージした特別なフレンチコースが提供されました。
【福武トレススペシャルランチ】
アミューズ:パプリカのムース アーモンドフォーム 福武トレスガーデン仕立て
前菜:鱧と翡翠ナスのフレ
魚料理:ヒラメのブレゼ アルベールソース
肉料理:オリーブポークのロティ オリーブとピスタチオのタプナードファルス
デザート:グラニテハーブヴェール 夏の香り
自家製カンパーニュ、ブリオッシュ

「鱧と翡翠ナスのフレ」はハスの葉にトマトコンソメの冷製スープを注ぎ、庭園内の池を表現。
「ヒラメのブレゼ」は板状にしたパン粉とバターをのせて蒸し焼きにし、舌の上でヒラメがバターと溶け合いながらほろりと崩れます。
そしてメインの「オリーブポークのロティ」は、香り高いタプナードファルスをのせてオーブンで火入れ。仕上げにアロゼし、香りと食感を高めるメインにふさわしいひと皿に。




各皿に驚きと感動が広がる中、ゲストおよびご来園の皆さまには、ゆっくりとお食事をお愉しみいただけました。また、食事中はトークセッションでは聞ききれなかったエピソード・質問を、ゲストの皆様に熱心に投げかける様子も多々見受けられ、建築・庭園を通したつながりが生まれていました。




盛況のうちに幕を閉じた第1回resonance。改めまして、ご参加いただいたすべての皆さまに心より感謝申し上げます。
第2回は、2025年9月27日(土)開催予定。
テーマは「建築と施工の視点 福武トレスのディティール」です。
再び武井誠氏・鍋島千恵氏(TNA)と佐々木啓輔氏(藤木工務店)をお招きし、より深い建築のディティールに迫ります。
次回の開催にも、どうぞご期待ください!




